oyama no souko.
シュウ、
2022 / 12 / 07
mob♀と結婚したluの子どもをshが少しだけ育てていた話。
『しゅう』『君の子』の続き。lu視点。
何でも許せる方向け。
おれときみの物語
俺には人生で大切な人が三人いる。そのうちの二人は君とあの子。俺は君とあの子に出逢えて心から幸せだったと思っているし、こんな俺と出逢ってくれて本当に感謝しているんだ。君とは十年、あの子とは五年間共に過ごして俺は身に余るほどの幸福を貰った。叶うならこの身が朽ちてしまうまで一緒に居たかったけれど、どうやら無理だったようで。ああ、かつてシュウに言ったことがあったな。そう、最後の一人はシュウ、俺の大切な人だよ。
俺に何かあったときはあの子を護って欲しいんだ。かつてシュウにそう言ったことがある。俺のその言葉を聞いて、
『冗談はよしてよ』
なんて返してきたシュウの顔が少しだけ傷ついていて、そんな顔して欲しくなかったのに、あのときは悪いことしちゃったなあ。その後にこうなっちゃったんだからシュウはどう思ったかな。俺にシュウみたいな格好良い魔法は使えないから。もしかして魔法っぽく思われたかもしれない。でも、魔法が使えなくてもきっとシュウは格好良かったと思う。俺が助けを呼ぶといつも何処かから現れて俺に手を差し伸べてくれたから。それはシュウが使うどんな術よりも魔法みたいで、そんなシュウに俺は何度も救われたんだ。だから、きっとあの子にも同じようにしてくれるよねって、そう思ったんだ。俺はシュウのことを救えたときがあったかな。いつも悪戯を仕掛けて笑いながらその名を呼ばれていたような気がする。数え切れないほどシュウの名前を呼んで、俺の名前を呼ばれて、シュウと俺が過ごしたあの日々はかけがえのないものだった。
シュウが独りぼっちになってしまったあの子を引き取ってくれて本当に嬉しかったんだ。俺たち家族としか交流がなかったシュウがあの子を引き取るなんて一筋縄ではいかなそうなのにサクッと決めちゃったのはきっとシュウがなんかしたんだろうなって笑っていたよ。ここからでもシュウとあの子のことはよく見えて、性格はどうやら俺に似たみたいだったからやんちゃで暴れん坊なあの子の元にやれやれって顔をして向かうシュウの顔が何度も見たことあったから、やっぱりシュウは優しいんだなって思ったよ。それに、きっと俺が呼ぶのと同じようにあの子に呼ばせたのはシュウのエゴなんだろうなって。でも、それで良かったんだ。良いんだよ、シュウ。呪いなんかじゃないさ、それはまじないと呼ぶんだ。
シュウが俺に友情じゃない何かを向けているのは知っていた。俺を見つめるシュウの眼差しはいつも優しさに満ちていて、他の人に向けるそれとはちょっと違うんじゃないかって。やっぱりそうだよね。君が言うんだから間違いないや。けれど、俺は今まで何度もシュウに手を差し伸べて貰ったのに、その意味合いを込めた手を差し伸べられたことは一度だってなかった。それがシュウの気持ちで、大切にしていることで、俺も同じようにシュウが大切だったから。だから俺はその手に己のを伸ばすことはなかったし、俺たちはずっと変わらないままここまで過ごしてきたんだ。
だから、それで良いんだよ。何が正解なのか、誰が正しいのかなんてそんなことは誰にもわからないことだから。だから、俺がシュウに確かな愛情を貰ったことも、君に愛情を貰って君とあの子に愛情を与えたのも、すべて幸せだったと思っているよ。シュウに出会えたことが俺の中では大切な思い出としてずっと胸の中にあって、それは決して間違いなんかじゃなかったから。そして、また人の子として産まれてくるようなことがあったら、そのときはシュウの手を迷わず握ろうと思うんだ。シュウから貰ったものをシュウに返せていないから。薄情な奴だって?君だって忘れられない男がいたってこと、知っているんだからな。クローゼットの奥にずっと仕舞い込んだネックレスを大事そうに持ち続けているの。俺はそういうのが気にならないほど君の想いは伝わっていたから何も言わなかったけれど。鈍感だって言われ続けてきた俺だけど、大事な気持ちはちゃんとわかっているんだから。君ももし俺と同じように産まれてくることがあったら、そのときは彼のことを追い掛けるんだ。俺は応援しているからさ。あの子もまた、誰か大切な人ができて新しい世界を沢山見て幸せでいて欲しいな。
あの子を置いてきてしまったことが本当に悔しいんだ。やりたいことは沢山あったしあの子の成長をこの目で、いちばん近くで見られない、そのことだけが心残りなんだ。でも、それでも、そんな俺たちの想いを継いであの子を暫く育ててくれたシュウにも、俺は言い残したことが沢山あって。シュウのことを友人と言わないのは、友人なんて言葉じゃ浅はかなくらいシュウのことを大切に想っていて、シュウに幸せになって欲しいと想っているからなんだ。この広い地球でシュウに出逢えたこと、今俺は幸せだったと思っているよ。幸せには色んな形があるから。俺の心ごと、全部引き取ってシュウが持っていてくれたら嬉しい。そうしたら、俺は必ずそれを受け取りに戻るから。そうしたらまた、俺とシュウの物語を始めるんだ。ふたりでさ。
俺たちのお墓に手を併せるあの子の頭を撫でるように、窓際で茶を啜るシュウに寄り添うように、俺は歌うために大きく息を吸い込んだ。