oyama no souko.
My Fire
2022 / 07 / 03
shuca
I want it That Way
歌詞と照らし合わせると良い感じになります
目覚めの悪い朝には、
君に隣で眠っていて欲しいんだ
いつも決まった時間に目が覚める。昨日は少し早めにベッドに入ったから目覚めはまずまずと言ったところか。隣を見ると安心しきった顔ですやすやと眠るルカの姿があって、その金色の髪を撫でると少しだけ眉根を顰めて、んん、と唸った。毛布を剥いで抜け出すと、こんもりしたその場所もモゾモゾと動いていて、きっとすぐに目が覚めてしまうだろう。いつものようにトイレを済ませてから、自室の引き出しに仕舞っておいた小さな箱を取り出した。言うなら朝にしようと思った。だってルカの不意を突きたいから。ルカはいつも目が覚めると身体を起こして何分かぼんやりとしていることがある。恐らく脳が動き始めるまで待っているのだと思う。その時間を利用して、シュウは今日の作戦を決行した。きっかり給料三ヶ月分の値段のする丸いリング。それが入った箱を左手に握りしめて寝室へ戻ろうとしていたとき、不意に寝室の中からルカの歌声が聞こえてきた。その歌に、引き寄せされるように寝室の扉を開けたシュウは、目の前の姿に思わず足を止めてしまっていた。
I want it that way
開けきったカーテンから差し込む光がベッドに座るルカの全身を照らしている。透き通った金色の髪がきらきらと輝いて、陽の当たらない場所に居る僕でさえ照らしているようだった。シュウに気付かずに歌っている姿は優しくて、でもどこか儚くて、五感全てでそれが綺麗だと言っていた。シュウに気が付くと少し照れくさそうにして、笑い混じりに歌い上げた。
「おはよう、シュウ。珍しいな、今日は戻ってきたのか?」
戻ってきたシュウに対して嬉しそうに問い掛けるルカの顔は朝だからかいつもより淡く蕩けていて、紫の薄まった瞳とこれから言おうとしていたことのせいで、ぶわりと湧き出した感情のまま、気が付けばその天使のような姿を抱き締めていた。わあ、と驚いたように声を上げるルカの肩をきつく抱き締めなら、シュウが吐き出した言葉は結婚しようでもなんでもなくて。
「ルカ、好きだよ。どうしようもなく君のことが好きなんだ」
嗚呼もう、こんなプロポーズなんてするはずじゃなかったのに。口から溢れ出たのはみっともない、縋り付くような愛の言葉だった。余裕なんて存在している筈もない。それでも君は僕らしいねって笑っているんだろ。君のせいだ。君がそんな歌を歌って幸せそうな顔でこちらを見ているから。歌詞の意味はわかってるの、僕だって未だに上手くわかっていないんだよ。なのに、全て理解したような顔で、まるで愛の全てを知っているかのような顔で此方を愛おしそうに見ているから。頬に伝った熱い温度は一体何年ぶりだろう。
「ふは、泣くほどか?」
「そうだよ、格好わるくてごめんね」
「まさか!俺は凄く嬉しいよ。俺もシュウが好きだ。これは俺が嵌めた方が良いか?」
そう言ってお互い回していた腕を解いて向き合う形になる。シュウの手に握られた小さい箱が小気味いい音と共に開けられた。
「ぼくが嵌めるよ」
声も視界も滲んでいて、そんなシュウを見てけらけらとルカが笑っている。
「ははは、そんなぐちゃぐちゃの顔で見えてるの」
「わかるよ、何度君の手を握ってきたと思ってるの」
今更君の指にリングを嵌めることくらい簡単だ。自室に取りに行ったときに感じていた緊張はすっかり消え失せていた。ぐちゃぐちゃの顔とは裏腹に、するりと嵌め込まれた指輪を見てルカが笑う。もうこれ以上皺を深くするなんて出来ないだろうに、さっきよりも更に深く、柔く笑みを刻んでルカはシュウの額にちう、とキスを落とした。乾いた唇の感触がシュウの額に伝わる。
「はは、引っ越しの準備をしなくちゃな」
そう言ってルカがシュウの手を取る。
no matter the distance
「こんなに遠く離れていても俺はシュウを好きになったよ。だからさ、もうそろそろ良いだろ?」
「……るかぁ」
「ははは!また泣き出した!」
握りしめられた二人の指には同じリングが煌めいている。みっともない朝の涙を乾かすように目の前の太陽は煌々と暖かい陽射しを運んでいた。