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命よ、花と。

2022 / 11 / 06

同棲shuca

ホラゲに見せかけた創作雑談コラボ配信を

見るとなんとなくわかると思います

何色の花にしよう

 君が笑うなら、僕じゃなくたって良いんだ。きっと優しい君だから、選べないって泣いてしまうんだろうけれど、それすらもわかった上で僕は君の手を離してあげる。僕の心臓を笑って差し出せるなんて、どんなに幸せなことだろう。

 

「僕の命と地球が掛かっているとしたら、ルカはどっちを取る?」

「え?」

 朝、なんでもない日の朝にシュウはルカに問い掛けた。長閑な午前の空気は涼しくて、昨晩の熱を穏やかに醒ましてくれるようだった。テレビは付けない。毎日どちらかのお気に入りの曲をスピーカーから流して朝ご飯を食べる。大抵、それは朝食係の選曲で、朝食を作るのはルカが多いから例に漏れず今日も彼のお気に入りのナンバーが流れていた。たまにルカがシュウのプレイリストを流して、と言う日もあって、知らない曲で気に入ったのがあれば自分のプレイリストに入れ、ルカも知っている曲が流れたときには二人で歌いながらパンに齧り付く。

 シュウが突然そんなことを言い出したのは、先日二人でした配信内でルカがシュウとアイクの命を天秤に掛けなければならない展開のある話を作ったからだ。突拍子もなく言い出したシュウの言動にルカは一瞬固まったものの、すぐにこの前の配信のことだと思い至った。

「あー、配信の?」

「そう。アイクとじゃ流石に分が悪いからね、地球とならルカも選べるかなって」

 自分とこんな間柄になっておいて今更何を言っているんだと甘いカフェオレを啜る。もうすっかり慣れたはずの腰の痛みが甘く、ずきずきと痛み始めるようだ。でも、確かにルカはシュウとアイクの命を天秤に掛けられたらそのどちらかを選ぶことなどできない。きっと、選べないと噎び泣いて泣いて、泣いてしまう。だから地球とシュウにしてみたって?そんないきなり規模が大きくなることがあるか。手に付いたジャムをぺろりと舐めてシュウを見た。

「そんなの、」

 言葉が詰まる。答えなど聞いた瞬間に決まっていて、むしろルカにとって選択の余地などないものであったから当たり前のように口から滑り出したそれを、それでもぐっと堪えて口を噤んだ。ずるいよ、シュウ。

「そんなの決まってる、地球の方だって?」

「言いたくない」

「ふは」

 それでも容赦なく答えを言ってのけるシュウにとってそれはルカと同じく自明の事で、でもルカと違うのはそれを口にするのに抵抗が無いところだ。だからルカは悔しくなって、シュウに同じ質問を問い掛けた。

「じゃあシュウは」

 俺と地球、どっちを取るんだよ。少しぶっきらぼうになってしまったのはシュウのせいで、俺のせいじゃない。膨らませた頬も皺を寄せた眉間も恨めしそうに見つめる眼も全部ひっくるめて吸い込んで、シュウは応えた。

「あー、ルカって言ったら怒る?」

 はは、笑ってシュウは残り一口だった食パンを口に放り込んだ。相変わらずルカの手に残された二口分のそれは口に入れられることなくルカの手と共に空中で停止している。

 怒らないけど。そもそもファンタジーだし。でも、シュウは俺を選ぶなんて、俺がシュウを選べないみたいにシュウも俺を選べないんじゃないの。

「顔に全部出てるよ」

「だって、」

 今日は朝からたくさん言い淀んでばかりいる。さっきも言ったが、これはシュウのせいだからルカは悪くなどない。けれど、ルカの口がいくら動きを止めようとすべて顔に出てしまうのだから、シュウにとってそんなことは関係なかった。目は口ほどにものを言う、ルカほど体現している人をシュウは見たことが無い。

「それが僕は選べちゃうんだなあ」

「なにそれ、ずるい」

「するいってなに、ルカも僕を選べばいいじゃん」

「できないって知ってるくせに!」

「あはは」

 この男は意地悪だ。それはもう、邪悪で最低な酷い男である。二口分の欠片を一口で口に入れ、シュウの煎れた甘いカフェオレで流し込んだ。喉に詰まるよだって、うるさいよ、もう!

「今日はシュウが皿洗ってね」

「それは別に良いけど、なんで怒ってるの」

「わからないの!」

「はは、わかる」

 カチャリと鳴った食器の音を重ねて二人で流しに持って行く。食器を置くなり、シュウはルカの手を引いて、不機嫌な頬に口づけた。ちう、と朝によく馴染む、色気のない拙い音が鳴った。

「僕は世界を救うために僕の手を離せるルカが好きだよ。きっと僕から手を離すかもしれないけれど、ルカはそれでも泣いてくれるから」

「……俺は、世界を放って俺を助けちゃうシュウがすき。でもこの質問をしてくるシュウはきらい」

「どうしたら許してくれる?」

「…ぎゅってして」

 そんなんで良いの。抱き締めた温もりでころころと笑うシュウの声が、振動が伝わってくる。好きな人とは一緒に居られるだけでいいって、もう何回も言っただろ。それなのに、それ以上何をしろって言うんだよ。さっきも言ったけれど、これはファンタジーだしもしもの話だ。それに、もし本当にそうなったとしてそんな選択肢が出来るのかなんて、全く別の話で。でも、もしそうなったのだとしたら俺が出来るのはひとつだけだ。

「シュウのお墓にたくさんの花を届けに行くよ。シュウが寂しくないように」

 寂しいのは俺の方かもしれないけど。肩口に顔を埋めていて声がくぐもっていたけれど、目の前のこの男にはちゃんと聞こえているはずだ。

「ルカはやさしいね」

背中に回った手が強くシュウの身体を抱き締めて、ずっと離さない。これじゃあ洗えないよ、シュウがそう言う十分後までそれは続いていた。

 

 君のためなら心臓の一つ、それで足りないのなら片腕と片脚だって渡せる気がするのに、それを君は嘆くのだ。まるで大事なものを抱き締めるかのように。花を摘みに行く君の姿が見られないのはひどく残念だな。嗚呼でも、君の摘んできた花でいっぱいに埋め尽くされた己の墓標があるのならそれも悪くないかもしれないね。遠くから両手に溢れんばかりの花を抱えて、君が此方へと向かってくるのが見えた。

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